”いのちのスープ”の辰巳芳子先生から学ぶ料理と生き方
亀時間では寒い季節の朝食にスープを出しています。鎌倉や葉山などの農家さんから仕入れた新鮮な旬の野菜を使うことを基本にしていますので、よっぽどへまをしなければ美味しいのは当たり前。でも、どうやったらもっと美味しく作れるのかと研究していたとき、鎌倉に10年待たないと入会できない人気のスープ教室があるらしいという話を聞きました。10年待ちでは希望してもいつ参加できるか分からないし、どうやら先生は怖い人らしい。
どんな作り方をしているのか興味を持ち調べたところ、その料理教室の辰巳芳子先生は「蒸らし炒め」という技法を使っているらしいことが分かりました。通常のスープ作りでは玉ねぎを炒めるときに蓋をしませんが、蓋をしながらゆっくりと炒めることで素材の持つ力を最大限に引き出し、フィトケミカルなどの栄養素も漏れなく取り込めるというのです。
以来その手法を取り入れて、試行錯誤を重ねました。宿業務を並行しながら調理することも多いので、蒸らし炒めをやりすぎて気が付いたら玉ねぎが真っ黒に焦げてしまい、一からやり直しになったことも一度や二度ではありません。でも次第にコツが掴めてきて自分なりに一つの完成をみました。お客さんから美味しいと言ってもらえることも多いのですが、完成と思った時点で成長は止まりますね。
完成と思ったものがマンネリに感じられてきて、もう少し改善の余地は無いものかと料理本を探していたら、その辰巳先生の本に出会ったのです。『スープ日乗』という著書には鎌倉で開催している料理教室での授業の様子がそのまま書き起こされていました。読んでいるとまるで教室に参加しているような臨場感があり、先生の妥協を許さない姿勢が伝わってきて気が付くと背筋が伸びていました。
自己流だった蒸らし炒めの技法にも改善すべき点を発見できたことが良かったのは勿論ですが、もっと良かったのはこれまでの人生の経験に裏打ちされた”いのち”を大切にしたいという想い、そして厳しさの中に生徒に対してより良い人生を歩んで欲しいという願いが伝わってきたこと。「食べるということは、養いになるはずのものを、選ぶべきように選んで、作るべきように作り、食べるべきように食べること」、「当たり前のことを徹底的に最善の方法でやるべきようにやる」のだと先生は仰います。そして膨大な練習量のみが気づきに至る道だと断言しており、練習無しの気付きはただの思い付きだと切り捨てます。
亀時間でスープを作って8年目ですが凡夫にはなかなか気付きが訪れません。それでも、野菜を作ってくれる農家さんのこと、食べてくれるお客さんのことに思いを馳せつつ、季節や素材に向き合う中で、自然体で美味しいスープができるようこれからも努力を重ねたいと思います。興味を持たれた方は是非本を読んでみてくださいね。先生は亀時間の建物と同じくらいに長寿ですが、まだまだ現役でご活躍されています。久々に先生と呼びたくなる方に出会った気持ちになりました。
●辰巳芳子先生のホームページ
https://www.tatsumiyoshiko.com/
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