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台湾の使者が八畳間の掛け軸を解読!

亀時間の八畳間は建物の中でも一番立派なところ。
ねじれた床柱のある床の間と鳳凰の飾り窓が素敵です。


床の間には師範の資格を持つ大家さんが10年以上も前に書いた
草書の掛け軸が掛けてあるのですが、
達筆すぎて読むことができずにいたのでした。

先日、台湾から亀時間にやってきたカルロスさん。
過去に25年も東京で働いていたのですが、
5年ぶりに観光と旧交を温める為にやってきました。
古民家好きで、東京でも古民家に住んでいたそうで、
今回亀時間を選んだのも、そういう理由があったのです。

彼が一泊した翌朝、朝食が終わった頃に、
八畳間の掛け軸を眺めて「これはリーバイの詩だね」と教えてくれました。
言われて初めて分かったのですが、
掛け軸に近づいてみると「李白」と書いてあります。
なるほど、中国語で李白は某ジーンズメーカーと同じ読み方なんですね。

「李白」は唐の時代、8世紀に生きた詩人。
その詩作の素晴らしさから「詩仙」の別称が与えられています。

彼は掛け軸をにらみながら、達筆で読めない部分を読み解こうと頑張ってくれま
した。そして八割がた解読したので、大体の意味を教えてくれたのですが、
残り二割がやはり分からずじまい。ちょっと気持ちが落ち着きません。

そこはインターネットの時代。
分からない箇所は検索しようと彼がノートブックPCを取り出して
全文を見つけてくれました。それが以下の通り。

 廬山東南五老峯
 青天削出金芙蓉
 九江秀色可攬結
 吾將此地巣雲松

中国の名山、廬山の東南にある、
5つの老人が並んでいるように見える五老峯。
そこは青天が削り出したかのような急峻な山で、
日に照らされる様はまるで金の芙蓉の花のようだ。
九江と呼ばれる川は美しく、抱きしめたいほど。
私はこの雲と松のある場所にいつか隠遁しよう。

という意味だと教えてくれました。

彼が読んでくれた詩の響きが、とても美しかったので録音させてもらいました。
ちゃんと詩が韻を踏んでいるからです。
下の矢印をクリックして再生します。

[audio:https://kamejikan.com/wp-content/uploads/2011/10/kakejiku1.mp3|titles=kakejiku]

学校では漢文は、「レ点」、「一」、「二」などの番号ふって、
下に行ってから戻ってきたりというようなことを習いました。
しかし、それでは意味は分かっても詩の美しさである
韻を踏むリズムは台なしなんですね。

廬山は中国南部江西省にある国立公園。
ユネスコ世界遺産にも登録されており、
風光明媚なことで有名で、山水画、山水詩の発祥地と言われております。
司馬遷に始まり、中国の文人がこぞって此の地に赴き、
多くの書、詩、画の作品を残しているのです。

廬山図、沈周画


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やはり、漢字文化圏として中国、台湾、日本は文化を共有しているのだなあと
しみじみ感じていたら、次の日の朝、カルロスさんがもう一つの意味を見つけたと、
詩の別解釈を教えてくれました。

四行目、最後のフレーズ、
吾(我々の)、將(まさ)、この地、雲松に巣をつくる。
つまり「私たちのマサがこの雲と松のある場所にゲストハウスを作る」
と言う風に読めるじゃないかと、
曇り空と、亀時間玄関脇の松を指さしながら、笑みを浮かべていました。

「全てのことに意味があるんだよ。」と言いながら、
僕がここでゲストハウスを始めることが運命だったと言わんばかりの彼。
若造の発言なら、思い込みだよと聞き流すところですが、
長年務めた会社をリタイアした年輩の彼から聞くと重みがあります。
英語の格言に、
「Life is 10 percent what you make it, and 90 percent how you take it.」
「人生の10%は自分が作るけど、残りの90%はどう受け取るかだ」
というものがありますが、
確かに、毎日の生活に現れる現象をどう受け取るかということが、
その人の一生を決める気がします。
自分勝手な解釈は危険ですが、人生のシナリオを作るのは自分なのだということです。

「今回の滞在の最大の喜びはこの掛軸を巡る謎解きの知的ゲームだった。」
とカルロスさんは去る時に感想を伝えてくれました。
そして、この建物の価値を高く評価していただきました。
文化人が多く住み、面白い店が軒を連ね、古民家も多い鎌倉の街をとても気に入り、
住んでみてもいいなと思っているようでした。

それまで意味不明の飾りに過ぎなかった掛け軸が
彼の滞在をきっかけに、自分にとって深い意味を持ち始めました。
カルロスさん、多謝!

彼は亀時間の宿帳に2ページに渡って、亀時間の建物のこと、
李白の詩のことなどを書いてくれたのですが、
英語の筆記体でサラサラと書かれているため、
八割がたは読めたのですが、二割が分からずじまい。
また解読してくれる使者が来るのを待たねばなりません。

<MASA>

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