「種の学校」インド特派員すずまゆリポートVol.2
前回今年3月に『裸足の大学』へ訪問記
https://kamejikan.com/?p=8523
を送ってくれた元亀時間女将、すずまゆの最新インドリポートが届きました!
著名な豪華講師陣が揃う10日間コースに参加。
ここには世界から人々が集まり学んでいるようです。
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11月末にインドのウッタラカンド州、デラドゥーンにある『種の学校』(Bija Vidyapeeth)へ行ってきました。デリーの駅から早朝電車で出発し、6時間ぐらいでデラドゥーン駅に到着。更にオートリキシャに乗り換えて1時間ほどでマンゴーの木に囲まれた小道に入り、それまでの喧噪から静かな空間へ。
経済のグローバル化や農業の工業化に対して食べものや命を守るため、インド人女性科学者のヴァンダナ・シヴァによって設立された研究センター「ナブダニヤ(Navdanya)」。ナブダニヤの意味はヒンディー語で『9つの種』のこと。少しずつ校舎を建て増ししながら、年間を通じて様々なコースが開催されています。 この場所で15年ほど前から持続可能な暮らしのための学びの場である『種の学校』が始まりました。
ナブダニヤの詳細はこちらのHPからどうぞ。http://www.navdanya.org
今回は11月21日から30日まで、10日間のガンディーとグローバリゼーションのコースに参加しました。講師はインドの思想家で『リサージェンス(Resurgence)』と いう雑誌の編集長のサティシュ・クマール、ヴァンダナ・シヴァ、そしてチベット亡命政府の元代表のサムドン・リンポチェ。10日間、この学校で暮らしながら学んで来たことをお伝えできたらと思います。
サティシュ・クマールは9歳でジャイナ教の僧となり、18歳でガンディーの本を読み、その思想に共鳴してインドから八千マイルの平和巡礼を行ったインド生まれの思想家です。現在78歳ですがとてもパワフルでかわいらしく、何よりも慎ましい人です。写真の後ろの木は15年ほど前に、この学校が始まった時にサティシュが植えた木です。今では気持ちの良い木陰を提供するほど大きくなり、その下で教室が開かれました。こんなに青空教室が気持ちよいとは!と驚きました。
サティシュはガンディー思想の4つの大事なキーワードから話してくれました。
SARVODAYA(サルヴォダヤ:すべての人の向上をめざすこと)
SWARAJ(スワラージ:自治)
SWADESH(スワデーシ:地域経済 ※ガンディーの時代には国産品愛用運動という意味合いで使われていましたがサティシュはグローバリゼーションに対してのスワデーシ、つまりローカライゼーション、地域経済を再生するということに重きをおいていました。)
SATYAGRAHA(サティヤグラハ:真理の力、宇宙、人間の根源にある絶対的真理を自らの中に保って世の悪や不正に打ち勝つこと。ガンディーが イギリスから独立する際に用いた手法で、「真理の探求」と「非暴力」を固く守ることで生まれた力によって独立を目指しました。)
一つ一つ、サンスクリット語の語源に返って、丁寧に。大事なことはガンディーの時代に引き戻ることではなく、現代にガンディーの言葉の意味を見いだすということ。サティシュは2年半かけてインドからモスクワ、ロンドン、パリ、アメリカへとお金を持たずに歩いて平和のお茶を届けた体験談を話してくれました。なぜお金を持たずに歩いたのかというと、人々を『信頼』するためと。そんなことが本当に出来るのかと思ってしまうけれど、実際にそれを成し遂げた人の話は力強く聞こえます。
信頼の第一歩は自分から。それから、周りの人々を信じること。
午後は散歩の時間があり、近くの森や川、村へ。特に印象的だったのが、川を渡った時のサティシュのお話。
『川の中に入ってごらんなさい。この川を流れる水とコップの水は違うように見えますが、その本質は変わりません。容器に合わせて姿を変えているだけなのです。水は柔軟です。あなた達も水のように柔軟に生きなさい。』
冷たい川の中に足を浸していると、サティシュの言葉がすーっと身体に入っていきました。
参加者もインターンとして長期滞在している人、そしてコースだけの短期参加者を含めて約40人がインド国内だけでなく、世界各地から来ていました。 年齢も15歳から60代まで多様です。写真はカナダから来ていた15歳のレイチェル。カナダで遺伝子組み換えに反対をしている活動家です。
レイチェルがカナダのTEDで講演したスピーチはこちらから。
その他にも自然農をしている人、種の図書館を始めた人、環境哲学を学ぶ人など、様々なバックグラウンドを持った人たち。夜には参加者の活動や知識をシェアする時間があり、インドの古典舞踊から土の微生物の世界まで興味深い話を聞くことができました。私もちょこっとだけ、鎌倉のトランジションタウンの 活動と地域通貨の話をしました。
食堂の後ろは家庭菜園。三度の食事はすべてこのオーガニック農園かナブダニヤと契約をしているオーガニック農家のお野菜をフェアトレード価格で買ったもので作られています。だからとっても新鮮で美味しく、安心して食べられます。そして全てベジ!
食事の時間になると、鐘がなります。みんな列を作り、ビュッフェ形式でお皿に盛って行きます。
この日の夕食は大根、人参、きゅうりのサラダに豆のカレー、そしてカリフラワーとじゃがいもの野菜カレー。そしてチャパティに、リンゴの甘く煮たデザートです。毎日モリモリ食べていました。食事の時間は他の参加者と話したりする楽しい時間です。この種の学校での一日の流れはゆったりしています。1日のスケジュールを紹介します。
• 朝7時〜8時 ヨガ(自由参加)
• 朝8時 朝食
• 朝8時45分 朝のミーティング
• 朝9時〜10時 シャムダン(コミュニティーワーク)台所、清掃、畑、庭に分かれてお仕事
• 朝10時〜11時 自由時間 (シャワーを浴びたり、洗濯など)
• 朝11時〜13時 講義
• 昼13時 昼食
• 昼15時 散歩の時間
• 夜19時 夕飯
• 夜20時~ 夜の講義(参加者による活動のシェアをする時間)
• 夜22時 就寝
こちらは朝のシャムダン(コミュニティーのお仕事)の風景。畑で伸び放題だった草を刈っています。
一人でやると大変だけれど、みんなでやるとあっという間に。心もきれいな気持ちになります。講義ばかりでなく、身体を動かす時間も大切です。
こちらは種の銀行。ナブダニヤのお寺のような神聖な場所です。お米は700種類以上もの種が保存されています。
畑の近くにあるコンポスト。牛の糞、尿もコンポストに使われています。
牛さんが現役で畑を耕すのに活用されています。機械ではなく、インドの伝統的な農耕方式です。
こちららナブダニヤ創始者のヴァンダナ・シヴァ。額に大きな丸いビンディーをつけて力強く温かなオーラを持つ女性です。科学者であるだけでなく、 哲学も学んだヴァンダナは、食料の安全保障の為には産業化された農業よりもオーガニックな伝統農業によって多様性を維持することが、栄養そして環境面からも優っていることを研究によって明らかにしています。ガンディーはイギリスからの独立運動で『糸車』(チャルカ)を象徴にしたのに対し、ヴァンダナは 『種』を象徴にして多国籍企業による支配と戦っています。日本もTPP(環太平洋地域経済連携協定)に参加するかについて言われていますが、これによって遺伝子組み換え食品の規制緩和によって食の安全が脅かされることについてはもっと議論する必要があるように思います。まずは知ることから。
チベット亡命政府初代首相を務めたサムドン・リンポチェの講義もありました。
『今は様々なバランスが崩れた世界にあります。科学技術と精神性、個人と社会、人間と自然。バランスが取り戻す必要があります。精神性は自分を知ることです。わたしは誰なのか。自分を見つめなさい。いかなる暴力も避けなさい。行為がどのような影響を及ぼすのかを考えることが地球市民としての責任です。』
終わってみると本当にあっという間の10日間でした。このコースに参加して実感したのは私たち一人一人が希望の種を持っているということです。私も自分のできることから始めていこうと改めて思いました。まずは小さなテラスガーデンを始めてみることにします。これらの種が世界各地にちらばって、それぞれの地域で花開くことができますように。
<SUZUMAYU>